未払い賃金についての団体交渉
【事案の概要】
介護事業所Yで労務管理を担当していたXは従業員の配置および給与計算その他、事務処理全般を担当していた。Xは自身も現場での就業をすることがあり、時間外労働はかなりの時間となっていた。しかし、Xはこの事業所はある意味、自分が引っ張っていってるんだという自負もあり、やりがいもあったので、長時間労働に対する不満は口にすることがなかった。Xの時間外労働に対する賃金はX自身で計算し、計上した金額について毎月受領しており、その額についてYからのチェックなどは一切なかった。
事業所の中では非常に重要なポストに就いていたXだったが、ある時から事業主Y1との意見にずれが生じるようになり、次第に関係性が悪化していき、ついには一身上の都合により退職したいとの申し出た。Y1はXに辞められると運営上、非常に困ることになるとの自覚はあったが、既にXとの関係性は修復不可能と考え退職を承認した。
後日、Xが1人でも加入できる労働組合、地域ユニオンのAに加入したとの通知および団体交渉の申し入れがAより送られてきた。
【当事務所の関与】
問題解決の話し合いにおける対策の検討、決定等への参与
【事案の顛末】
労働組合との団体交渉は正当な理由がない限り拒否することはできない。正当な理由とは既に裁判で決着がついていることの蒸し返しや、会社との交渉で解決できない政治的な内容であったりといったときに該当する可能性が有る。他にも手続き上の問題での正当な理由などもあるが、普通に業務が忙しいからといった理由のみで日程等の調整の呼びかけもせずに拒否することは正当な理由とはならない。
Aからの要求書についてはあまり細かなことは書かれていなかったので団体交渉においてその詳細な要求を確認することになったが、主となる要求は休日労働の割増賃金が支払われていなとのことだった。
Yはこの点について以下の主張をする。①給与計算をし、自身の残業手当も計算し受領していたXが休日労働の計算のみしていなかったのは不自然だ。②休日労働の計算をするなとか、休日労働は支払わないといったことはない※今もXはそのような主張をしていない。③稼働の記録は自筆のものだが、後から書き加えられた可能性がある。※当時の受注量と合わない④仮に支払わなければならないものがあったとしても2年経過したものは時効だ。
交渉は事実関係についてお互いの主張が平行線となり一時、膠着化した。その後、Aの方から「Yが自身の主張に固執するならこの問題を労働基準監督署に申告するが、少しでも譲歩する気があるなら、団体交渉の場ではなく、相互の窓口による調整で、解決案を模索しても良い」との提案があった。これはXのほうより早期に問題を解決してすっきりした気持ちで次の事業所に再就職したいとの希望があったためとのことだった。
窓口での調整は和解案をAが提示し、それをY側で検討し、修正案を行き来させることで進めていった。
最終的にはY、Aの双方が一定の譲歩をすることにより、無事終結した。